第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
エスカレーターを下りながら、瞳を閉じる。
これで、明日のライブはどうあがいても3人で乗り越える他なくなった。そして了は、当然そのことを知らない。巳波がノースメイアへ向かったことも、話していない。色々と、覚悟を決めなければならなかった。
しかしそんなことよりも、今は素直に嬉しい。ナギと巳波、そして春樹にとって、最良の結果に収まったのだと思うから。
ふと、一昨日のナギとの通話を思い出す。彼は私に、IDOLiSH7への伝言を頼もうとしていた。それが、頭の隅にずっと引っかかっていたのだ。どうして直接、自分で話をしないのだろうか、と。
まさかとは思うが、仲間に何も告げずノースメイアへ経ったのだろうか。だとすれば、いまIDOLiSH7は…彼らは、どんな心持ちでいるのだろう。
思い立ったが早いか、私は環のスマホに電話を掛けていた。自動で体が下へと運ばれる中、待つこと数コール。通話は繋がった。
彼と話す時だけは、エリでいくのか春人でいくのか、またタマちゃんと呼ぶのか四葉さんと呼ぶのか、いくつもの迷いが生じた。
しかし こちらが第一声を発する前に、あちらの方から会話はスタートする。
《 もしもし!中崎さん?おぉー。そっちから電話くれるとか、マジ、レアな 》
環が私を、えりりんではなく中崎さんと呼ぶということは、彼の周りには誰かがいる。で あるならば、こちらの選択も春人モード一択だ。
『突然 電話してすみません。今お時間は…あまり、なさそうですね』
環の息が少し上がっていること。電話口が些か騒がしかったこと。それらを加味するに、彼はどうやら取り込み中のようだ。