第93章 選んだのは、こういう道だろ
考え込んでいた3人の顔は、一瞬にして驚きに変わった。聞かされたばかりの言葉を、懸命に咀嚼している。
「おい、…春人。それはつまり、俺達 TRIGGERの、プロデューサーを辞めるってことか?」
『はい』
「本気か」
楽は よほど信じたくないのか、そう2回、確認をした。その問い掛けに、私は2度頷く。
「キミは、アイドルとしてデビューするつもり?ツクモに行くってことは、そういうことでしょ?」
『デビューに関しては、半年間待ってもらえることになりました。その猶予期間内に、どうにかデビューしないで済む方法を考えますよ。奴に張り付いて、弱みでも握ってやります』
「そう。キミらしいよ。プロデューサー」
天は、長い睫毛を伏せて言った。
私がここを去ると聞かされ、まずはLioとしての強制デビューを心配してくれる。彼は、やっぱり優しい。
「おい天。お前は、こいつがツクモに行っても良いって思ってるのか」
「良いとは思ってない。でも、楽だって分かってるでしょう。彼が、一度言い出したら聞かない性格だってこと」
「だからってな!俺はそう簡単に割り切れねぇ。TRIGGERのプロデューサーは、こいつじゃなきゃ駄目だろ!」
「ボクだって本音を言えばそうだよ。でも、子供みたいに駄々を捏ねたって仕方ないじゃない。プロデューサーの顔見て分からない?もう決めてるんだよ、この人」
「っ、この冷血ハリネズミ!簡単に割り切ったふりして、大人ぶってんじゃねぇぞ!」
「キミはもう少し、割り切る努力を見せてくれない?そうやって大声で喚いて彼がここに残ってくれるなら、いくらだって協力してあげる」
あぁ、またこの2人の言い争いが始まってしまった。もうすっかり見慣れた光景だ。
私は、この続きを知っている。
もう少ししたら、仲介が入るのだ。彼が間に入り、まぁまぁ とか、落ち着いてとか、穏やかな声で2人を宥める。そのやり取りも、もうしばらくは見納めだろう。しっかりと、この目に焼き付けておきたい。
そう思って、私は龍之介に視線をやった。しかしそこに、いつもの穏やかな仲介人の姿は、なかったのだ。