第82章 TRIGGERを独り占めだね
さっきまでいた陸地が、小さく小さくなった頃。龍之介は船のエンジンを切った。
すると、さっきまで唸っていたモーター音がピタリと静まる。代わりに聞こえて来たのは、優しい波音。船体に当たった波が跳ねっ返る水音。
ゆらゆら、ちゃぷん。まるで、ヒーリングCDを聴きながら揺かごに乗せられているような心地だ。
「ん…っ、気持ち良いねぇ」
「あぁ。なんつーか こう…癒される」
「うん。日々の疲れが、溶けていくみたい…」
私達は、一様に目を閉じる。さきほどまで運転していた龍之介も、今は頭の後ろに両手をやって、背もたれに体を預けていた。
『……ふぁ』
あまりの心地良さに、眠気が顔を出す。
ここで、ひとつ確認しておく。
私をはじめ、ここにいる彼らは ほとんど寝ていない。楽、龍之介、私は朝方まで酒盛りをしていたし。その側にいた天も、きっと深い眠りには就けなかったはずだ。
だから…こんな最上の癒し空間にいれば、簡単に眠くなる。揃いも揃ってうたた寝をしてしまうのも、必然と言えよう…
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『ん……、あぁ。いけない、いつの間にか寝ちゃ……』
よだれの跡を腕で拭い、自然な流れで辺りを見渡す。
前を見る。そこには海があった。左を見る。海だ。右は、海。後ろを見ても、海しかない。
『…………なんてこった』
私は、隣で眠る龍之介の体を揺する。
『龍、ちょ、龍!起きて』
「ん、んー…あはは、エリ…大丈夫。目薬なら、俺が差してあげる。ほら、おいで…」むにゃ
『何の夢を見て…っ!は、早く起きてよ!』
「っ…んん、あれ?…そうか、俺、寝ちゃってたのか。
おはよう、春人くん」
『龍、ここがどこだか分かりますか』
「え?どこって…海」
『だから、陸がどっちか分かります?』
「………」
龍之介は前後左右を確認し、それからサーーっと顔を青くした。