第94章 抗うもの
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「くそっ、こっちも駄目か」
炎を避けながら逃げていたエースとダダンだが、もう既に炎は退路を完全に塞いでいた。
飛び終えようにも周囲の家屋はとっくに焼け落ち足場の役目を果たさない。
だが諦めるわけにはいかない。どうにかならないかと考えているとエースの身体が宙に浮いた。
「しっかり口を閉じてな」
「おいダダン?」
「行くよ!」
エースを脇に抱え、制止する間もなくダダンは炎の壁に向かって走り出す。
その腕を、背を炎が焼いたが巨体に包まれるように抱えられていたエースにその炎は届かなかった。
「おいバカ止めろくそババア!焼け死ぬぞ!」
「止まってても一緒だよクソガキが!舌噛むから黙ってな!」
止まれ下ろせと騒ぐがダダンは一向に聞き入れず、ひたすら眼前に向かい走り続ける。
だがその勢いもついに落ち、ダダンは膝をつき倒れた。
「っひでェ火傷じゃねェか……!」
無理矢理炎の中を走ったダダンの身体は全身焼け爛れていた。
早く治療をしなければ命にかかわる。動こうとしないダダンの腕をエースは懸命に引いた。
「立てよ!本当に手遅れになるぞ!」
「……いいから、置いてきな」
「!!何言ってんだ」
ふざけてんのか、と零すエースの言葉にダダンは視線だけを向ける。
「あたしはこれ以上動くのは無理だ。いいからさっさと行きな」
「何馬鹿なこと言ってんだ!見捨てろってのか!」
「これでも仮親登録されてんだ。__親が子を巻き込みたいと思うかい」
初めて聞くダダンの想いにエースは息を呑む。
無理矢理押し付けられたと散々文句を言い、酒をかっ喰らってばかりで親らしいことなど何一つされたこともない。
それなのに、なぜこんな時にそんなことを言うのか。
「__あいにくと、おれはお前を親だなんて思ったことはねェんだよ」
「……そうかい」
「だけどな」
脇に潜り込みダダンの身体を背負う。少々危なっかしい体勢だが、出来ないことはない。
「っおい、」
「親だけが、家族じゃねェだろ」
親と呼ぶには違和感が過ぎる。
だが他人と呼ぶほど、どうでもいい存在ではなかった。