第94章 抗うもの
「何してんだい。言ったろう、置いてきな」
「黙ってろくそババア。舌噛むぞ」
言い返してやれば口喧嘩する体力も尽きたのか黙り込んだ。
ダダンを背負いエースは逃げ道を探す。先程よりも少し道は開けたように見えたが、時間の問題だろう。
出せる全力の速度でエースは駆ける。だが先の戦闘のダメージはエースの身体を想像以上に蝕んでいた。
ふらつく足がもつれ地面に倒れ込む。霞む視界の先でダダンが同じように地に伏していた。
「ちく、しょう……」
ここで死ぬのか、とぼんやりと思った。
ごうごうと燃え盛る熱気がエースに迫る。
このまま立ち上がらなければ、炎に呑まれエースはあっけなく死ぬだろう。
__嫌だ、と思った。
その事実に笑いが込み上げる。
__おれ、生きていてもいいのかな
海賊王の子どもとして生まれ。
生きる意味も、自分の存在理由も、何もかもが暗闇の中にあったあの頃。
__そんなもん、生きてみりゃわかる
あぁ、全くその通りだ。
あの頃は、ふざけんなと思っていたのに。
気がつけば、目標ができて。
同じ志を持つ相棒ができて。
守りたいと思う弟までできた。
独りだと思っていた世界は、見渡してみればたくさんの温もりと絆に溢れていた。
それに気付かせてくれたのは、他ならぬアイツで。