第94章 抗うもの
***
水琴の言う通り南東へ向かい走っていたエースだったが、炎は予想以上に早くグレイターミナルを覆い尽くそうとしていた。
天すら焼こうとする炎と煙はエースから方向感覚を容易く奪い、既に自分たちがどこにいるのか全く分からなくなっていた。
だがエースの足は迷うそぶりを見せない。片手から伝わる確かな熱を放すものかと握りしめ、常とは異なる景色から微かに窺える日常の断片を頼りに僅かずつではあるが確実に炎の海を抜けようとしつつあった。
あと少しでグレイターミナルを抜けられるといったところで物陰からゆらりと影が立ち塞がる。ここで見るわけがないその人物にエースは足を止め油断なく構えた。
「あそこから抜け出せたとは悪運の強ェガキどもだ」
「ブルージャム……!火をつけた張本人が何でまだこんなとこにいんだ」
とっくに大門から避難したと思っていた事の発端を前にまずい奴に出くわしたと内心舌打ちをする。
ブルージャムの背後から現れた手下どもの多さもまた相まってエースの焦りを加速させていた。流石にこの炎の中でこれだけの人数相手に無事逃げおおせられるかは自信がない。
だがそれでも表面だけは気丈に振舞い、鋭い視線をブルージャムへと向ける。
「黙れクソガキ。絶望だよオレたちはよォ。おい」
そんなエースの威嚇など目に入らないかのようにブルージャムは苛立ちを隠そうともせず地面を蹴り上げた。
「まさかの大ピンチだ。人間てのはおかしな生き物だな。不幸もどん底まで来ると笑っちまうよ」
「ルフィ行くぞ!」
明らかに奴らの拠点で別れる前と様子の異なるブルージャムに嫌な予感しかしないエースはルフィの手を引きその場を離れようとする。
しかしすぐさま手下が背後へと回り込み、エースたちの退路を完全に塞いだ。