第94章 抗うもの
「俺は……」
生まれは、選べない。
この身体に流れる血を、完全に消し去ることは出来ない。
「俺は、貴族に生まれて恥ずかしい……っ!!」
しかしどう在ろうとするかは、いつだって自分自身で決められるものだ。
未だ倒れ込んでいたサボの身体を男は支え起き上がらせてくれる。
同志を労わるように優しく包まれる肩にサボは心地良さを覚えた。
「分かるとも。俺もこの国に生まれた」
「おっさん……俺の話を聞いてくれるのか」
「あぁ。忘れない」
サボの魂の叫びを否定せず受け入れてくれるその言葉で、全てを吐き出した心に温かい何かが流れ込んでくるのが分かる。
それは本来なら、親から子へと与えられるもののはずだった。
兄弟と過ごす時に感じる温かさとは別の何かに、サボは全身の力が抜けていく。
見知らぬ男の前で意識を飛ばすなど、普段ならあり得ないことだった。
だがサボはなんとなく、この男は信頼できると感じた。
薄れていく感覚の中、ただ自身を包む腕の温もりだけがいつまでも残っていた。
自身の腕の中で意識を手放した少年を見つめる。
その身体は傷だらけで、ここまで来るのに相当の苦労をしたことが窺えた。
__俺は、貴族に生まれて恥ずかしい……っ!!
「とうとう子どもにコレを言わせるのか、ゴア王国……」
未来ある少年の悲痛な叫びに何とかしてやりたいと思いながら、しかしまだ自分にはこの国を変えるだけの力がないことを自覚しているドラゴンは悔しさに目を閉じる。
「ドラゴン、準備出来ティブルわよっ」
物陰から現れたイワンコフはドラゴンの手の中で眠る少年に気付きその特徴的な目元を上げた。
「その子は?」
「潜伏している工作員に匿うよう言っておいてくれ」
イワンコフにサボを預けドラゴンは門の向こうへ視線を向ける。
夜はまだ明けそうになかった。