第94章 抗うもの
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暗がりで目を覚ます。
どうやら落ちた衝撃で随分と長い間気絶していたようだ。
身体に纏わりつく布とロープを取り外しながら、サボは痛む身体を何とか起こした。
落ちどころが良かったのか、あちこち痛むが骨や関節に異常はなさそうだ。
自分の悪運に感心しながら、サボはよろよろと通りへ出た。
中心街の大通りは端町から避難してきた人で溢れ返っていた。大門の方から来たのだろう男性が数人の仲間と座り込み何やら話している。
「聞いたか?この火事の犯人はゴミ山のブルージャム海賊団だそうだ」
「やっぱりそうか。奴ら以外に考えられねぇ」
「世界政府の視察団が来られねぇように事件を起こしたようだぜ」
どうやら世間ではそういうことになっているらしい。異なる真実をぶちまけたくなるのをこらえる。今目立つわけにはいかない。
サボは目立たぬよう慎重に端町へ向かった。
申し訳程度に警備の人間が立っていたが避難してきた住人の対応でいっぱいいっぱいでその目をすり抜けていくことなど簡単だった。
動物の気配すらしない端町を大門へ向かい残り少ない体力を使い走る。
門の前には武装した軍隊が待機していた。その人数に正面突破は不可能だと悟りサボは拳を握る。
ここまで来て。
あと一歩のところで、駆け付けられないなんて。
「エース、ルフィー、水琴ーー!逃げろぉぉ!!」
せめて声だけでも届けたいと、サボは声を張り上げる。あわよくば水琴の耳に届き、この門を越える手引きをしてくれやしないかと期待して。
だがそんな奇跡はそうそう起きない。それよりも早く軍隊に気付かれ、サボはあっという間に拘束された。
「やめろ、放せ!」
「なんでこんなところにガキが……邪魔だ、失せろ!!」
まさか貴族の子どもがいるとは思わなかったのだろう。男はサボを乱暴に通りの向こうへと放り出した。
既に満身創痍だったサボは満足に受け身も取れず無様に汚れた地面へと転がる。
「ちくしょう__っ」
土に汚れた手が滲み、揺れた。
今も、あの門の向こうで兄弟や水琴が命の危険にさらされているのに。
その危機を救うことも、駆け付けることすらできないなんて。