第94章 抗うもの
そうでしょう?と微笑むが、水琴が逃げられない人たちを前に自分だけ逃げだすような人間ではないと知っているエースは素直に頷くことができない。
だが無理についていけば水琴の足を引っ張ることになる。エースはそのことも十分に分かっていた。
苦渋の思いでエースは決断する。
「__分かった」
「エース?!なんでだよ、おれたちだって手伝え__!」
「その代わり、絶対に戻って来いよ」
文句を言いかけるルフィの口を塞ぎ、エースは戻って来いと水琴に再度告げる。
その様子にエースの覚悟を垣間見て、水琴はただ静かにうん、と頷いた。
「絶対に戻る。__約束する」
奥歯を噛み締め、エースはルフィの手を引き走り出す。
強くなりたい。
いつだってそう思っていた。
だけど今ほど強くそう願ったことはなかった。
自身に向ける怒りを力に変え、エースはその左手に握りしめる小さな弟の手だけを寄る辺にただ炎の中を走った。
小さくなっていく二つの背中をじっと見送る。
全てを取り除くことは無理だが森の一区域だけに絞れば半日でもなんとかなる。
うまく森を抜けられれば協力者であるダダンたちとも合流できるだろう。
巡回してきた哀れな海賊たちを拘束する役として活躍してくれたダダン一家が待つであろう方向を仰ぎ見てから水琴は動き出した。
風を飛ばし被害が多い場所を確認する。その間も水琴の肌を不快な熱が這い眉をしかめた。
「__悪いけど、私が欲しいのはこんな熱じゃないの」
水琴の周囲を焼かんと迫る炎を自身を中心に生まれた風が吹き飛ばす。
小さな竜巻が消えた後には誰も残っていなかった。