第94章 抗うもの
「少なくとも私には、あの壁の向こうが素晴らしい世界には思えない」
でもそれでいい、と水琴は語る。
「御託はいいです。何を誇り、何を恥じるか、貴方と論じるつもりは毛頭ありません。
__とりあえず。エースとルフィを、返しなさい」
静かな怒りがその瞳の奥でひやりと燃え揺れるのをエースは見る。
他者の言葉で到底揺るがない水琴にブルージャムは未だルフィを拘束していた部下を一瞥した。
「大層な演説ありがとよ。これは礼だ。とっておきな」
「うわぁ!!」
言葉と共にルフィが勢いよく宙へと放り投げられる。
風を纏っていた水琴は慌ててそれをかき消し、頭から地面に叩きつけられようとしていたルフィを両腕で受け止めた。
その隙にブルージャムは懐から素早く銃を抜き撃ち放つ。
静かな夜に乾いた銃声が鳴り響いた。
「……?」
誰かを狙う訳でもなく上空へと向けられた銃身にエースは怪訝な視線をやる。
しかしその狙いはすぐに皆の知るところとなった。
遠くで爆発音が轟く。続けて一発、二発。連続に鳴り響くその音は木々やごみの燃える悪臭を運んできた。
「少し早いが想定内だ。さァ仕事だ野郎ども!」
「っ待ちなさい!!」
「悪ィが能力者を正面から相手するほど馬鹿じゃねェんだ。逃げ場はねェ。仲良く焼け死ぬんだな」
瞬く間に広がっていく炎と煙に身を隠しブルージャムは高笑いと共に姿を消す。
後を追おうかとも考えたがエース、と呼ぶ水琴の声にすぐさま踵を返し水琴とルフィへ駆け寄った。
「今から言うことをよく聞いて。ここから南東にまっすぐ進めば炎の範囲から抜け出せる。二人は早くここから逃げて」
「水琴はどうすんだ」
「グレイターミナルの人達を避難させる」
「たくさんいんのに、そんなの水琴だってあぶねェよ!」
ルフィの叫びにそれでも、出来る限り助けたいのと水琴は決意の固い眼差しでエースたちを見つめた。
「そんならおれたちだって……!」
「火事を甘く見ないで。炎に焼かれなくったって煙を吸いすぎれば命にかかわるの。
私なら大丈夫。いざとなったら風になって逃げられるんだから」