第94章 抗うもの
何も知らないくせに。
まっすぐ伸びる凛とした背中も。強い意志を秘めた眼差しも。
ここまでの水琴の歩んだ軌跡を知らぬまま、その道を汚すような言葉を吐くな。
衝動のままにエースはブルージャムへ飛び掛かろうと足に力を込めた。だがブルージャムと向かい合う水琴の静かな瞳に動きを止める。
「__確かにその通りですね」
静かに、水琴はそう肯定した。
「どれだけ綺麗ごとを並べたって。海賊が法を犯し、普通に日々を過ごす人々の生活を脅かす存在であることは否定できません」
“普通”から零れ落ちてしまった不適合者。世間一般の正義とはかけ離れたものであることを、水琴は否定しない。
「でもだから何だって言うんですか。海賊にだって貫く正義があります。それは世間には認められない、正義とも呼べないものかもしれない。
でも大多数に認められないからといって、それは間違っているといったい誰が決められるんですか」
白い布地に零れた黒は汚点だろうか。
多くの者が前を向く中後ろを振り返る者は愚かだろうか。