第94章 抗うもの
「はな……せっ!!」
せめてルフィだけでも逃がす隙を作らなければ。
渾身の力を込めてエースは身体をバネのようにしならせ上体を勢いよく起こす。
振り上げた頭がちょうど顎にヒットしたのか、エースを押さえていた海賊はくぐもった悲鳴と共に後方へ大きくのけぞった。
はずみで緩んだ腕を無理やり引きはがし背後の海賊へ蹴りを入れる。バランスを崩していた海賊はものの見事にひっくり返った。
「てめェ、なにしてんだ!」
「どうせ焼け死ぬんだ、やっちまえ!」
仲間をやられ頭に血の上った他の海賊がぎらつくナイフを抜きエースに向かって振り下ろす。
「エース!!」
ルフィの泣き出しそうな叫び声と共に、意志ある風がエースに襲い掛かろうとしていた海賊を吹き飛ばした。
目の前から消えた海賊と髪を撫でていく風に誰が来たのかをエースは悟る。
「__誰だてめェ」
月夜にその黒髪を浮かび上がらせ、水琴は静かに佇んでいた。
いつか見た時と同じ、海賊の空気を纏う水琴をエースは黙って見つめる。
「見慣れねェ顔だな。だが今の風……能力者か」
「水琴は本物の海賊なんだぞ!お前らみたいな悪い奴、けっちょんけちょんにしてやるんだからな!」
「本物だと?」
ルフィの言葉をブルージャムは鼻で笑う。本物もくそもあるものか、と侮蔑の念を込め吐き捨てた。
「海賊なんてどう取り繕おうと所詮ははみ出し者。世間に適応できない、嫌われ者だ。
この国を見ろ。生まれ持った血によって既に人生の勝利者は決まってる。運命に見放された者は泥水啜って無様に生きるしかないのさ」
だがオレは違う、とブルージャムは勝ち誇った顔で告げる。
「オレは海賊なんて日陰者で一生を終えるつもりはねェ。ここから。今夜から華々しい貴族の世界に躍り出てやるんだ!
おめェらのように、チャンスすら手繰り寄せられねェちんけなヤツらとは違うんだよ!」
蔑みの感情で水琴を見下すブルージャムにエースは強烈な怒りを覚える。
一体どの口が水琴の生き様を、その在り様を辱めようというのか。