第94章 抗うもの
伝えなければならない。
追われている今、高町を抜け出すのは困難を極めているだろう。
だが今ここで動かなければ、サボの中で小さく燃える意志の炎は完全に潰えてしまう。
それはサボという一人の少年の死と同義だった。
周囲の様子を探りながら慎重に歩を進める。やはりというか、中心街へ繋がる検問所に近づくにつれ警備の数は増えていった。
いったい出来の悪い息子一人捕まえるのにどれだけの根回しをしたのだろう。
「見つけたぞ!」
「高町から絶対に出すな!」
「やべっ!!」
あとちょっとのところで見つかりまた高町の奥の区域へ追いやられる。
裏路地でじっと息を潜め、近づいては戻るの繰り返し。
満足に休息も取れない逃亡劇の中、体力と気力は徐々に擦り切れていきサボの身体は限界に近づきつつあった。
「どこか、別の抜け道は……」
あるわけがないのは分かっている。高町は貴族や王族がすむ特別な区域だ。おいそれと侵入を許すようではいけない。
この国は端町、中心街、高町とすべての区域が高い壁で囲まれており、住人を明確に区切り管理している。
出入りできるのは検問所のみ。端町は比較的警備が緩いが、中心街と高町の間はそうはいかない。
横から吹いてくる風に帽子が飛ばされそうになり慌てて押さえる。今日は朝から風が強い。
こんな日に火事など起きたら瞬く間に燃え広がってしまうだろう。
だから、早く水琴たちにこのことを伝えに行かなければいけない。
「風か……」
もしサボに水琴のような能力があれば。
何にも縛られず、何にも妨げられず、自由に望む場所へ行けたんだろうか。
店先に出ているパラソルを店員が慌てて片付けている。こんな日だ。畳んでおかないと飛んでいってしまって危ないだろう。
まるで船ではためく帆のようにバタバタと暴れるパラソルの裾をぼんやりと眺め、サボははっと気付き顔を上げる。
しきりに周囲へ目をやり、風の吹く方を観察した。