第94章 抗うもの
今は遠い島で穏やかに暮らしているだろうとある発明家の娘と父を思い出しながら、水琴は冷静になった頭を下げた。
「ごめん、エース」
「……おれも、かっとなって悪かった」
「じゃあ仲直りだな!」
満足そうに笑うルフィに敵わないなと舌を巻きつつ、水琴はそれでね、と思いついたことを口にする。
「さっきの作戦。エースとルフィがこのままブルージャムの一味と行動するのは分かった。だけど探るのは私に任せてほしい」
ブルージャムだってサボの件から二人の行動には特に気を配っているはずだ。
まさか自分の懐を探ろうとしているとは思っていないかもしれないが、下手に動けばどう出るか分からない。
「二人はブルージャムの気を引き付けておいてほしい。私はその間にブルージャムが何を企んでるのか探るから」
「そうだな。確かにその方が良さそうだ。正直あいつらの監視を掻い潜るのは骨が折れそうだからな」
「途中様子を見に行くから、何か気付いたことがあったら教えてね」
「分かった!」
それと、と水琴は明日に備え寝床に戻ろうとした二人をそっと引き留める。
「お願いだから。
__絶対、命を粗末にはしないで」
霧の中に潜む記憶が警鐘を鳴らす。
それが何に対してかは分からない。
だがその記憶が水琴にとって良くないものだということだけはなんとなく分かった。
水琴の言い様に何かを感じたのか、二人は静かに分かったとだけ返す。
これ以上は明日に差し障る。水琴は二人に別れを告げ窓から空へ身を投げた。
遠い向こうに暗く沈む海と波で揺らめく月明かりが見える。
モビーディックの甲板から見る夜の海はあんなに神秘的だったのに、なぜ今はこんなにも恐ろしく感じるのだろう。
全てを呑み込もうとする闇から目を逸らし、水琴もまた家路を急いだ。