第94章 抗うもの
その通りだった。水琴たちは四人だけで生きているのではない。
ダダン一家、フーシャ村の人たち、端町やグレイターミナルで知り合った今を逞しく生きる人々。
それらすべてを遠く離れた海から守れるほど、水琴は強くも万能でもない。
「でも、だからってサボが犠牲になる必要なんて……!」
「おいおい。いつ俺が犠牲になるなんて言ったんだ?」
「だって……サボはここに残るつもりなんでしょう」
「今はな。時機じゃないってだけだ」
俺は必ず海に出て、夢を叶える。サボの瞳の光は消えていなかった。
「だけどその夢を叶えるための力が、俺にはまだ足りない。俺は俺自身の力であいつらを捻じ伏せて、自分の足でここを出ていく。__水琴に連れ出してもらうんじゃ、恰好がつかないからさ」
最後に冗談のように付け加えた言葉に水琴もまたつられて小さく笑みを浮かべる。
サボらしい。彼ならば、本当に何年かかろうとも実行することだろう。
だけど。水琴は心の中でじわじわと広がる黒い闇にどうしても頷くことができなかった。
彼をここから連れ出さなければならない。今すぐに。
何故かは分からないが水琴は強くそう感じていた。
「サボ、やっぱり__」
零れかけた水琴の言葉はドアの向こうから聞こえてきた足音に中断せざるを得なかった。
その足音の主が誰か悟ったサボが慌てて水琴を隠すため窓に手を掛ける。
「まずいステリ―だ!水琴、俺のことはいいからエースとルフィを頼む!」
「待ってサボ!話はまだ__」
続けようとする水琴の目前で窓はばたんと閉められた。これ以上騒げばサボの身が危うくなる。水琴は渋々窓から離れた。
最後にそっと屋敷を見上げる。豪華な屋敷が立ち並ぶ高級住宅街に相応しい、立派な造りのお屋敷。
既に空には月が昇ろうとしていた。そろそろ帰ってエースたちの様子を見に行かなければならない。
ひっそりと等間隔に並ぶ不気味な屋敷の間に落ちる闇に溶けるように、水琴はそっと高町を離れた。