第103章 グランドラインへ
「あと少し早くいなくなっててくれればよかったのに」
「……驚いた。あのラブーンを飛び越えて来るとは」
しばしの間甲板でぐったりとしていると、どこからか声が聞こえ水琴は顔を上げた。
甲板から顔を出せば不思議な髪形のお爺さんがこちらを見上げているのが見えた。
「……花?」
「ありゃ新種のひまわりか?」
「いや、なんか特殊な薬草じゃねぇか?」
「花でも薬草でもない。クロッカスだ」
ラブーンが迷惑を掛けた、と続く言葉にエースはぴくりと眉を動かす。
「ありゃ爺さんの鯨か」
「私の、というわけではない。あの子はラブーン。私の友人だ」
上がれ。茶くらいは出そうとクロッカスは家へと入っていく。
どうやらラブーンの体内だけでなく外にも居を構えているらしい。灯台守として過ごしていた頃の家だろうか。
鯨の中に案内されず人知れず安堵する水琴を余所に、エースたちは船を停めクロッカスに続く。
家の中には様々な薬品が置かれていた。どうやらラブーンに注入するための薬を調合する場のようだ。
出された茶を飲みながら、クロッカスが語る一頭の鯨ととある海賊団の話を水琴たちは聞く。
「仲間を……」
「あァ。あいつはもうかれこれ五十年程仲間が戻ってくるのを待っている。あァやって、山の向こうに呼び掛けながら」
船を震わせた大きな声を思い出す。
あの声にはどれほどの想いが込められていたのか。
「もう、仲間が帰ってくる事はないというのに」
「帰ってきますよ」
水琴は断言する。
「全員は無理かもしれない。もうその海賊団は壊滅してたとしても。でも、絶対ラブーンに会いに仲間は来ます」
今はまだ、独り暗い海を漂っているだろうのっぽの音楽家を想う。
彼は絶対に、ルフィと共に再びここへ来るだろう。
正面から、堂々と。
水琴の力強い言葉にクロッカスは目元をやわらげる。
「不思議だ。お前さんが言うと、本当に聞こえてくる」
「だって本当ですから」
にっこりと笑えば、クロッカスは苦笑した。