第4章 夕虹
「潤」
俺がうつむいてると、優しい声がした。
昔から聞きなれた、兄貴の俺の名を呼ぶ声。
大好きだった……声。
顔をあげると、兄貴は少し真剣な顔になった。
「俺は、お前が大事だ。だから言う。……引き返すなら今だぞ」
「…………」
「お前が俺ではない誰かに泣かされるのも、傷つくのも。俺はみたくない」
「な……にそれ……すごい勝手じゃん……」
「まぁエゴだな。俺の」
大真面目な兄貴に、俺は絶句する。
「そんな…………兄貴にそんな権利ないじゃん」
「……だって俺はお前の兄貴だ」
「……」
なんだか泣けてきた。
そして……笑えてきた。
そんな何度も、自分は兄貴だって立場を言わなくたって。
分かってるよ、そんなことくらい。
なんだよ。俺をぶったくせに。
……ひどいこと言ったくせに。
俺は、ごくごくと水っぽいジュースを一気に飲み干して、兄貴を強い目で見た。
「ねぇ……兄貴は俺を大事だと思うの?」
「当たり前だ」
「じゃあ……見守ってて。大野さんに恋してる俺を」
「…………わかった」
「俺の味方になって」
「……ああ」
そして、兄貴は、
「……あのときは叩いて悪かった」
と、言った。
「……うん、もういいよ」
兄貴を前に、やっと話ができた。
俺は、長野さんによい報告ができるな、とぼんやり考えてた。