第3章 三十日月3
太陽が照らすのは、眠る少年に体を寄せる少女。
「きれい」
暖かな日の光は少女の体を少しづつ灰にして、風に運ばせる。
熱いとか痛いという感覚はない。己が消えゆくというのにとても穏やかな心地だ。少女はただ世界に溶け込んでいくように消える自分を眺めていた。
こんなにキラキラと光り輝きながら消えていくのなら少年にも見せたかったと考えて、吹き出した。もし少年が起きていたら泣きわめいて大変だっただろう。
「よく眠ってる、さすがはアタシの術」
目覚めればすべて忘れる術。
善逸のおでこを隠す髪をのける。その手に光が当たり消えていく様を見るときは眉間にしわが寄った。
腹が消えたときには、一緒に空腹感も吹き飛んだ。善逸を食べたいという気持ちもなくなってよかったが、善逸と触れ合った部位がなくなるのは悲しい。思い出まで一緒に消えていくようで胸がつまって重い。こんな胸は早く消えてしまえばいい。
最後に残るのは目がいい。記憶する脳が先になくなるのなら、今いる善逸を最後まで見続けてやるからだ。
「って??? え?」
朔の上に影がかかった。
いつのまにやら横にいた善逸が朔の上に覆いかぶさっていた。
いくら消えかけの鬼だからといって、人間の動きが追えないということはない。
本当に一瞬だった。
「なんで動けるのよ。アンタヘンテコ過ぎるでしょ」
閉ざされた瞳から雫がこぼれる。ひとつ、ふたつと朔の顔に落ちる温かい液体にくすぐったさを感じたが、もうそれをぬぐう術はない。
「悪かったわ。アンタにそんな顔させたくなかったの」
善逸の影の中でも朔が灰になることは止まらなかった。残された時間はもう多くはないだろう。
「アンタといるのすごく楽しかった」
「もっともっとたくさん楽しいことをしよう。春は花を見て、夏は花火を見て、秋は紅葉を見て、冬はふたりで寒いねって温め合うんだ」
「ありがとう」
「お礼なんかいいから、ねえ、もっと」
「顔見せて、最期までアンタを見ていたい」
善逸は赤子より小さくなった朔を胸に抱き、涙と鼻水でぐしゃぐしゃのまま無理やり口角をあげてみせる。
最期の瞬間まで善逸の顔を見続けたいという希望は叶わなかったが、瞼に落とされた優しい熱と幸福に包まれて朔は世界に溶けた。