第3章 雪と事件
信じられない光景に、頭の中が真っ白になる。
(今日はポアロにいるんじゃなかったの?!)
彼はなにもないかのように近づいてくる。
そして一瞬、彼の視線が、握られている『昴さんと私の手』に落ちる。
彼の瞳の奥に、暗く冷たい怒りの炎が灯ったのを、私ははっきりと見てしまった。
「ひ、っ」
「…ハルさん?」
「あれ……安室さん?!」
「安室兄ちゃん! なんでここにいるの?」
「やあ、コナンくん。毛利先生たちも……こんなところで会うなんて奇跡ですね」
降谷さんは見たことない爽やかな笑顔で、私たちの元へ歩み寄ってきた。
「実は数日前から、こちらのペンションでアルバイトをさせていただいていまして」
(アルバイト……潜入捜査だ)
透くんの目的が何かは分からない。
でも、彼の視線がふっと私へと注がれた。
「あれ、そういえばハルさんってポアロで働いてるよね?二人は知り合いじゃないの?」
不意にコナンくんが、不思議そうに私たちを見比べた。
私の身体が緊張する。
「いいえ、職場でお会いしたことはなくて、
初めまして……ですよね?」
とにかく間を取りもたなきゃと早口になってしまった。
「ええ、ただ、お噂はマスターから伺っていましたよ。……とても可愛らしい方で、明るくて。ただ、たまに思い切った行動をして周りをハラハラさせる『おてんばなお嬢さん』だと」
そう言って安室さんは、爽やかで完璧な笑みを浮かべた。
(……ひぃいい!!)
心臓が嫌な跳ね方をする。
周りにはただの噂話に聞こえるだろうけれど、私には分かってしまう。
激おこだ。
無断で家を飛び出してきた私に対する、冷たい怒りだ。
…今すぐ逃げ出したい。
「……ほう。ポアロのマスターと、そんなお話を?」
隣で黙っていた昴さんが、ゆっくりと眼鏡の位置を正した。
いつもよりほんの少し低い声。
糸のように細められた目の奥で、緑の瞳が怪しむように彼を見つめていた。