第1章 殺し屋
「…帰りました。」
東京の少し外れた街のマンションのドアを開け、
私はただいまなんて言えず、
履き疲れたパンプスとコートを脱ぎ、そう言った。
「おかえりなさい」
少し鼻にかかった綺麗な声が聞こえ
エプロン姿の”彼”が顔を出した。
「今日はハルの好きなスパゲッティだよ」
と、微笑む彼。好物のものを作られても、素直な返事は返せるほど、私は聞き分けがいい訳じゃなかった。それでも鼻を掠めたガーリックの匂いに、喉を鳴らしたのは事実であった。
「いただきます」
私の目の前に座る彼は三ヶ月前、初めて会った人。
その月日は、普通ではありえない状況に慣れてしまうのに十分すぎるほどだった。
雷の鳴る人通りのない路地裏で
彼の”仕事”を見てしまった日から、
私は”殺し屋”と一緒に暮らしている。