第118章 青い花の秘密
その答えに、家臣達の顔がさぁっと青ざめる。これでは更に火に油を注ぐようなものだった。
家臣達は恐る恐る信長の顔色を窺うが、意外にも信長の表情は穏やかだった。
「なかなかに言うではないか」
次の瞬間、信長の腕が伸び、朱里の肩を引き寄せる。
「きゃっ……」
不意のことに朱里は小さく声を上げ、信長の胸に倒れ込んだ。
広間の家臣達は、見てはいけないものを見たように皆一斉に目を伏せる。信長は当然のように朱里を引き寄せ、肩を抱いたまま、宗伯を見下ろした。
「さすがは博多一の商人だ」
挑戦的な笑みが浮かぶ。
「目利きは確かなようだな」
「恐れ入ります」
宗伯は恭しく頭を下げる。
信長は見せつけるように朱里の赤くなった頬に小さく口付けを落とす。ちゅっ、という可愛らしい口付けの音がいやに大きく響いたのは気のせいではない。
「の、信長様…お客人の前です。お戯れは…」
朱里は恥ずかしさのあまり身を縮めながら訴えるが、信長は素知らぬ顔で聞こえぬふりをする。
家臣達もまた視線を逸らし、必死に無表情を装っている。
宗伯だけが、どこか楽しそうに目を細めていた。
――なるほど。
第六天魔王などと恐れられる男も、愛しい女の前ではこういう顔をするのか。
人を見るのが商売である商人として、実に興味深い。
恐ろしいばかりでは人は付いて来ない。甘いだけでも戦乱の世は治めていけない。数多の武将達を相手に渡り合ってきた宗伯だからこそ分かることがあった。
(この謁見は期待した以上に得るものが大きかったな。織田信長という男の本質……もっと深く見てみたくなった)
胸の内でそう思いながら、宗伯は静かに笑みを浮かべたのだった。