第118章 青い花の秘密
「この小さき国に到底収まる御方ではないかと。海の向こうには日ノ本とは比べ物にならぬ大きな国、強大な富と力を持つ者がおります。織田様は彼らとも対等に渡り合える、この国で唯一の御方であると…私は確信しております」
信長を真っ直ぐに見据え、きっぱりと言い切った宗伯に、広間は騒然となる。
「無礼であろう!」
「商人の分際で御館様を値踏みするなど…」
家臣達が口々に声を上げるが、宗伯は微動だにしなかった。
頭を下げるでもなく、かといって不遜な態度を見せるでもなく、広間の騒めきなど気にする素振りも見せず、ただ静かに信長を見据えていた。
「黙れ」
低く放たれた一言に、広間は瞬時に静まり返る。
信長は脇息にゆったりと身を預けながら、愉快そうに口角を上げた。
「面白いことを言う」
家臣達が息を呑む中、信長は怒るどころか、機嫌を損ねた様子すらなく、値踏みするように宗伯を眺める。
「この俺が海の向こうの国と渡り合えると言ったな」
「はい」
「何故そう思う」
信長の問いは短い。
だがこの場にいる誰もが、その答え一つで宗伯の命運が決まることを理解していた。
宗伯は信長の威圧にも怯むことなく、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「富を欲する者は数多くおります。権力を欲する者もおります。しかし、その先を見据える者は稀にございます」
信長の瞳が細められる。
「織田様は誰も夢想すらしない未来を見ておられる」
宗伯は続けた。
「商人は人を見るのが商売。私は博多で数多の武将方を見て参りました。この乱世、誰もが天下を狙い、我こそは日ノ本の頂点に立たんと欲している。ですが、織田様は既に天下のその先を見ておられる。貴方様にとってこの国の天下など、単なる通過点に過ぎないのではございませんか」
宗伯の言葉に、家臣達は水を打ったように、しんっと静まり返る。
「くっ、くくっ…」
信長の低く抑えた笑い声が静寂を打ち破る。
家臣達ははっと息を呑み、その場に漂う空気はさらに張り詰める。
誰もが信長の機嫌を窺う中、宗伯だけは静かに頭を垂れたまま微動だにしない。
信長は脇息に頬杖をつき、口元に笑みを湛えたまま、愉快そうに目を細めた。