第118章 青い花の秘密
無防備に頭を預け、子供のように髪を撫でられてゆったりと寛ぐ主の姿に家臣達の間に動揺が走る。
見てはならないと思いつつ、ちらちらと様子を窺う者。
俯いて書類に向かっているが、気もそぞろで一向に筆が進んでいない者。
日頃から信長の朱里への溺愛ぶりは知ってはいるが、それは宴の場であったり、城下や奥で過ごす時であったり、と私的な場でのことであり、公の場でここまであからさまに見せつけるようなことはなかったのだが……
「……お疲れですか?」
ゆったりと髪を梳きながら朱里は遠慮がちに信長の顔を覗き込む。
その瞬間、閉じていた瞳がぱっと開いて至近距離で目が合った。
「別にどうということはない。いつもと変わらん」
「そうですか…?」
珍しく皆のいる前で寛ぐ様子を見せるので、余程疲れているのかと案じてしまう。
信長は元々、人目など気にする人ではないが、公私の別には厳しい人である。日頃は疲れた素振りなども一切見せず、家臣達には強く威厳に満ちた姿しか見せない。
「今日はやけに静かだな」
信長は朱里の頬を撫でながら室内を見回し、薄く笑う。
その声に、びくり、と周囲の家臣達の肩が揺れる。
誰もが平静を装い何食わぬ顔をして座っているが、主君の機嫌を損ねぬよう神経を尖らせているのがありありと伝わってくる。
朱里はそんな何とも気まずい空気に気付き、小さく身を縮こまらせた。
「……皆さん、お仕事中ですし…その、そろそろ私は戻りま…」
膝の上に乗る信長の頭を揺らさぬようにしつつ、少しだけ身動いだ瞬間、腰をぐっと引き寄せられた。
「ひゃっ…!」
「誰が動いてよいと言った」
「で、でもお仕事中ですよね…?」
「今は休憩中だ。そうだな、秀吉?」
「はっ!っ…いや、その、休憩というか何というか…」
突然話を振られた秀吉は、しどろもどろになりながら否定とも肯定とも付かぬ返事を返す。
「信長様、秀吉さんも…皆さんも困ってますし…」
「困ってるのか?」
低く問われた瞬間、部屋中の空気が凍りついた。
「い、いえ!」
「滅相もございません!」
「ありがたき幸せにございます!」
口々に上がる声に、朱里はますます居た堪れなくなり、その場でもじもじと身を捩る。
その一方で、信長は愉快そうに喉を鳴らして笑った。
「であるか」
(皆、絶対無理してる!秀吉さんも困った顔してるし)
