第118章 青い花の秘密
いきなり長椅子に座らされて戸惑っていると、信長もまた隣にゆったりと腰掛ける。
「あの…信長様?」
戸惑いながら呼びかけると、信長は愉快そうに口元を緩めた。
「暫し借りるぞ」
そう言うと、大きな身体がゆっくりと傾いて…身動きする間もなく信長の頭が膝の上に乗せられた。
下から見上げる信長と目が合うが、すぐに反応できず、目を瞬かせた。
「お、御館様っ…」
秀吉が慌てて駆け寄りかけるのを無言で制した信長は、そのまま長椅子にゆったりと身体を預ける。
「休めと言ったのは貴様だ、秀吉」
「いや、そうですけど、ここでは…」
執務室は家臣達の出入りも多い。夫婦仲睦まじいのは皆、分かっていることだが、さすがに人目は気にしてもらいたい。
「構わん」
一言で言い捨てると、信長は徐ろに朱里の背後に手を回し、腰から尻への曲線をするりと撫でる。
「きゃっ…!?」
尻をきゅっと掴まれて、思わず小さな悲鳴とともにびくりと身体を震わせる。
「の、信長様っ!」
真っ赤になって抗議の声を上げると、信長は意に介した風もなく愉快そうに喉を鳴らした。
「何だ?」
「な、何だじゃありません!ひ、人前でこんな…」
朱里の悲鳴にも似た訴えに、執務室にいた家臣達の視線が計ったかのように一斉に逸らされる。
見てはいけないものを見てしまったかのように、皆、気まずそうな何とも言えない顔をして手元の書類へと視線を落としている。
だが耳だけはしっかりとこちらへ向けられているような気がして、何とも居た堪れなかった。
「気にするな。誰も見ておらん」
「気にします!み、皆さんも困ってますし…」
「構わん。何を困ることがある」
あまりにも堂々とした言葉にそれ以上言い返せない。
信長は朱里の膝の上で気怠そうに目を細める。深紅の瞳には珍しく疲労の色が滲んでいて、横たわる身体からは少し力が抜けているように見えた。
普段は誰よりも堂々としていて強く、近寄りがたいほどの威厳に満ちている人が自分の膝に頭を預けて無防備な姿を見せている。
そのことに、胸の奥がじんわりと温かく満たされたような気持ちになり、無意識に信長の髪をそっと撫でていた。