第115章 紀州動乱
「ならば、信長さんに報せを…」
「その必要はない」
張り詰めた空気を断ち切るように、凛とした涼やかな声が広間に響く。
思いがけない声に驚いて聞こえてきた方を見ると、そこには……
「光秀さん!?」
甲冑姿の光秀さんが立っていた。
(戦場にいるはずの光秀さんがどうしてここに…)
「光秀さん、どうして…戦はもう終わったのですか?信長様は…織田軍は…皆はどこに…?」
「落ち着け、朱里。仔細は後ほど話す」
思わずその場で腰を浮かせかけた朱里を手で制し、光秀は前久にも軽く会釈して二人が座する方へと大股で近寄る。
がらんとした静かな広間にガチャガチャと具足が擦れる音が響き、今が平時ではないことを思い出させる。
「まさかこのような所で関白殿に会おうとはな。流石に俺も予想外だった」
「それはこちらも同じや。織田は全軍を上げて大戦に向かうと聞いとったが、明智殿が大坂に居られたとは意外ですな」
「あ、いえ、光秀さんは…」
「朱里」
光秀さんは意味深な視線とともに私の言葉を短く遮る。
(一体何がどうなっているの?予想外と言いながらも光秀さんが驚いている様子は見られなかった。光秀さんはこうなることを分かっていたの?)
混乱と動揺で言葉が出ず、この場は黙って様子を見るほかなかった。
「知恵者と謳われる明智殿がおられれば安心や。さすればすぐにでも信長さんに出兵の許可を…」
「それには及びませぬ。急を要する事態なれば、主の許可を得るまでもなく…直ちに兵を整えましょう」
性急に出兵を求める前久に対して、光秀は顔色一つ変えることなく鷹揚に応じてみせる。
「おぉっ!さすがは明智殿。これで一安心じゃ。主上もさぞや喜ばれよう。それともう一つ頼みがあってな…」