第115章 紀州動乱
「京の都は今、毛利軍に包囲されています。元就は畏れ多くも主上の退位を要求しており、応じぬ場合は内裏もろとも京の町を焼き払うと言うておる。脅しのつもりやろか、上京の何ヶ所かは既に毛利軍の襲撃を受けて焼き払われたところもあるそうや。内裏は武装した兵に囲まれていて蟻の這い出る隙もあらしません」
「毛利が京を…そんな…どうしてそんな恐ろしいことに…」
(毛利軍は今、織田と戦っているのではなかったの?元就さんがどうして京に…信長様は…織田軍はどうなっているの?帝に退位を求めるなんて元就さんは何を考えて…あぁ…分からないことだらけだわ)
思いも寄らない話に言葉を失うばかりだ。
俄かには信じられず、何と言って良いのか分からなかった。
「武士が朝廷に刃を向けるなど前代未聞や。不敬にも程がある。毛利は血迷うたとしか思われへん。退位など…武家が朝廷の政事に口出しするなど、あってはならぬことや。腹立たしいが、私ら公家は武力では対抗できん。このままやと京は焼け野原になってしまう」
「そんな…」
華やかな都大路の賑わいが思い出される。
多くの店が立ち並び、大勢の人が行き交う活気のある京の町。
長引く戦乱で荒廃していた京の町を信長様が元通り、いやそれ以上に復興させたのだ。
それが今また戦火に脅かされているとは…
「毛利討伐の勅命を受けながら、裏を掻かれて内裏を危機に晒すとは何事かと信長さんへの非難を口にする公家衆もおり、都は混乱を極めております。このような事態に主上も大層心を痛めておられて…」
「っ……」
「織田の陣中には真っ先に報せを送りましたけど使者は戻って来ません。もしや織田が負けた、などということは…」
「そんなはずはっ…信長様が負けるなどっ…」
そんなはずはない。信長様が戦に負けるなんて有り得ない。
でも………
戦場から便りがなかったのは織田が毛利に負けたから?
毛利は織田との戦に勝利して京へ攻め上ったというの?
ぽつりと落ちた不安という小さな黒い染みが胸の内にじんわりと広がっていく。
「ともかく織田家には勅命に従って毛利を排し、京を守ってもらわねばならん。一刻も早う京へ兵を…」
「お、お待ち下さい、関白様。信長様が不在の今、私どもだけで兵を動かすことは…」
今、この城には僅かな城兵しかおらず、京への出陣など出来ようはずがなかった。
