第87章 *懐刀インパクト*
暫く歩きながら廃れた景色を眺める。緩やかな風が吹き、脆くなった木材で出来た廃屋がミシミシと音を立て、いかにも何が出そうな雰囲気であったが、特にその手の恐怖はなく歩みを続ける
『ほんとにボロボロ..住んでる人いなくなって凄く長いのかな?何か寂しい場所だね。
ねぇ、ノ...っ!!』
言いかけた名前に心臓が強く高鳴る。この世界(夢)に来てからずっと忘れていた、己に宿る悪魔の名前をここに来てようやく思い出し、歓喜のような恐怖のような震えが這い上がった
『ぁ..ぁ..』
何故忘れていたのか、何故向こうは何も呼びかけてこなかったのか。次から次へと疑問が湧いてくるが、今のレイラは"その名を思い出してはいけない"という気持ちでいっぱいだった
『だめ..思い出しちゃ..だめ』
グルルルル...
『!!??』
目の前の廃屋の影から聞こえる唸り声にハッと顔を上げると、巨大な魔獣が顔を覗かせていた
牙を向きこちらへと太い脚でゆっくり近づいてくるが、レイラは突然のことに足が固まり逃げ出すことができない
そうこうしてる内に魔獣は目の前まで来ていて、小さな唸りと共にじっと見つめたままその場で立ち止まった
一向に襲いかかる素振りを見せない魔獣に、恐怖心を抱きながら疑問に思っていると、その姿にどこか見覚えがある気がした
『もしかして..街に来ちゃった魔獣さん?』
それは先日、鉄の者たちの山の開発の影響で妖精の町に降りてきた魔獣の内の1匹だった
レイラの声と近づいたことによりはっきりと見えた姿に、魔獣も唸りをやめて座り込む