第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
「俺は――今もきみしか見えていないぜ……」
その一言に胸の奥がふっと熱くなり、声にならない想いが喉の奥で震える。
「あんずを想わない日なんて、一度もなかった」
その告白は、まるで長い夢の終わりを告げるように、静かで優しい響きを持っていた。
「鶴ちゃん……っわた、私もずっと好き……好き……愛してる…」
「っ……とんだ回り道だな……」
そういって鶴ちゃんは「もう離さない」と言いながら私を強く抱きしめた。安堵と後悔と、どうしようもない愛しさが一度に押し寄せてきて、胸がぎゅうっと締めつけられる。
長く続いた霧のような誤解が、ようやく晴れた気がした。
「もう……外しても、いいよな……?」
何のことかわかりコクリと頷くと、そっと伸ばされた手がそのまま耳の横をなぞって、眼鏡を外す。そして外されたそれがかちりと小さな音を立てて、彼の手の中に収まった。
そして――優しく唇が重なる。
触れるだけの短い口付け。それだけで、すべてが報われた気がした。
「あんず……おかえり」
彼の柔らかい声が耳元に落ちて、涙が滲む。
もう、言葉は何もいらなかった――
儚く切ない記憶の中で 〜fin〜