第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
俺のことがわからないわけじゃないんだ。思い出をすべて忘れ去られたくらいなんだっていうんだ。これから新しい思い出を作っていけばいいだけじゃないか…
あの夜に失いかけたあんずが今、元気に俺の傍にいる。少しづつ笑顔も見せてくれるようになった。それが一番大事なことであり、俺の望みだったはずだ。
だから、記憶が戻らなくても俺は気にしない、戻らなくてもいい…そう彼女に伝えようと思っていた。
だが、あんずは俺の為に必死に思い出そうとしてくれていた。そんな彼女にもうやめようなんて言えなかった。
例え俺が覚えているとしても彼女の記憶を、思い出を、無くしてもいい…なんて自分勝手で無神経なこと俺が言えるはずがない。彼女の記憶は彼女だけのもの。
だから俺は…あんずが思い出そうとしている限り、どんなことでも力になってあげようと心に誓った。
そんな時に来た政府からの知らせ。期待せずにはいられない。
「実は…記憶を失くした原因はあんず様にあるという結果が出ました…」
「は?それは一体どういう意味だ?」
「私も聞いた時には耳を疑いました。ですが、何度聞いてもそれしか原因が見当たらないと……あんず様が、……っ、鶴丸様の事を忘れたくて忘れたというのです」
一瞬目の前が真っ白になった。
あんず自ら俺の事を忘れたくて忘れた…?