第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「カルヴァドス…?」
「ほら」
リヴァイの白く骨ばった指が、生成色の紙に書かれたドリンクメニューの上でぴたりと止まった。
「これだ」
そこには確かにコニャック、キルシュヴァッサーなどとならんでカルヴァドスとある。
「アップルブランデーになりますなぁ」
カズオの言葉がマヤの疑問を解決した。
「林檎のブランデー…。それも美味しそうですね?」
「あぁ、だが強ぇからマヤはシードルにしておけ」
「はぁい」
そんな他愛ない二人のやり取りをカズオは微笑ましく思いながら、
「すぐにお持ちしますので」
と、紫陽花の間を出ていった。
酒を待つあいだ、マヤは前菜の皿を眺めてはひとり笑みを浮かべている。
「……そんなに楽しみか」
「あっ、はい。だって見てください、このトマト! 何が入っているのかな…?」
マヤの華奢な指の先にあるのは、小さめの真っ赤なトマトをくりぬいて器にしてあるカップサラダ。
「こっちの緑のは宝石みたいにキラキラして可愛いわ」
見た目にも綺麗な料理を前にしてはしゃいでいるマヤは、見ていて飽きない。
「失礼します」
カズオが酒とスープを持ってきた。手際よく二人の前に配膳すると、料理の説明を始める。
「こちらはトマトのサラダと野菜のテリーヌです。スープは、ほくほくのカボチャになりますなぁ」
「あの…!」
退出しようとするカズオを引き留めたのは、マヤの質問攻め。
「このトマトのサラダの中身はなんですか? テリーヌは…?」
「トマトを器に見立てて中に詰めてあるのは、ゆでた芋と卵と玉ねぎを刻んであえたものです。テリーヌのベースは裏ごししたほうれん草で、ところどころ散りばめてあるのは白カブと人参をさいの目切りにしたものですなぁ」
「そうなんですね! 美味しそうです」
「さぁさ、スープが熱いうちに召し上がれ。次のお料理も順にお運びしますでなぁ」
今度こそカズオは出ていき、再びリヴァイと二人きり。
酒も運ばれ、ほくほく栗カボチャのスープからは湯気が出ている。
「……食うか」
リヴァイの手にあるクリスタルのブランデーグラスにはカルヴァドス。芳醇な香りを放っているその琥珀色の酒は、ランプの光をきらきらと反射して、この先の夜を予感させる幸せな輝きを放っていた。