第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
何かを知っていそうなのに何も教えてくれずに、澄ました顔で新聞を黙って読んでいるミケが憎たらしくさえある。
「………」
心穏やかではなく、マヤはめずらしく眉間に皺を寄せながら紅茶を飲む。
いつもは紅茶を片手に、あれやこれやと楽しげに会話に花を咲かせるマヤが小難しい顔をしていることにミケは気づいて、さすがにこれ以上からかうのはやめようと新聞を畳んだ。
「終わったら、リヴァイのところに急げ」
「……え?」
「リヴァイは大量の執務に追われてここにも来れないくらいだから、俺のところが終わったら急いで行ってやれ」
「兵長はどうして忙しいんですか?」
「それは行ってからのお楽しみだな…。さぁ休憩は終わりだ」
マヤはもっと訊きたいことがあったが、とりあえずは今の情報で満足してティーカップの片づけを始めた。
終業の時間が近づけば、そわそわしているところをミケに見られたくない気持ちが勝って落ち着かなかった。
そんなマヤの想いを知ってか知らずか、ミケは早めに声をかけてやる。
「今日のところはこれでいい。お疲れ」
「はい…! お疲れさまでした」
目にも留まらぬ早業で書類を片づけ立ち上がったマヤは、失礼しますと部屋を出ていく前にミケの方を振り返った。
「……どうした?」
「あの…、兵長は大丈夫なんですよね…? 急に心配になってきました…」
「あぁ、大丈夫だ。行ってこい!」
その言葉に背中を押されてリヴァイの執務室の前に立てば、いつもより扉が大きく感じられた。
「失礼します」
ノックしながら入室すると、リヴァイの姿が見えない。
「……兵長?」
見慣れた景色と違った執務机に違和感を抱く。
「マヤか。見てのとおり執務がたまっている」
執務机にうずたかく積まれた書類の山の向こうから、リヴァイの低い声がする。
「すごい量ですね」
マヤは、いくつもある山のなかから一番左のはしにある山を抱えると、自分の座るソファの前に置いた。
「悪ぃな…。しばらく名簿の方は手をつけられそうにない」
「それは別にかまわないですけど…」
……最近、殉職者の名簿作りばかりに力を入れていたから、それで通常の執務がこんなに溜まっちゃったのかしら?