第29章 カモミールの庭で
その日の夜、調査兵団一般棟の一階にある談話室で。
「えっ、どういうこと? リックさんがイルザさんのメイドから渡されたカードは、リックさん宛てではなかったということ?」
目を丸くして大きな声を出したのはペトラ。
「そうなのよ…」
今日の “カサブランカ” でのリックとイルザの顛末を説明しているのはマヤ。
そして同じテーブルを囲んでソファにはリヴァイ班全員、すなわちエルド、グンタ、オルオ、ペトラが座っている。離れたソファにはリヴァイが一人で背を向けて座っていた。
ヘルネから帰ってきたマヤは団長室に直行して、エルヴィンに報告を済ませた。
そのときに団長室に居合わせたリヴァイと食堂で夕食をとっているとリヴァイ班の面々につかまって、そのまま食後に談話室で説明会となったのだ。
談話室にはリヴァイ、リヴァイ班全員とマヤ以外には誰もいない。
「結局お互いに誤解していたってことなの。駆け落ちをしようとした日にイルザさんが行けなかったのは、本当に寝こんでしまったからだったの。リックさんはそれを来ないための嘘の口実だと思っていたけど、実際には駆け落ちという大それたことを起こす前の極度の緊張状態にあったところへ、縁談の話が持ちこまれたストレスで発熱したんだって」
「あらま、それで?」
「イルザさんは縁談相手の男性へお断りの手紙を書いたの。そして待ち合わせをしているリックさんのところへは、一番信頼しているメイドさんを行かせたの… 急病で行けなくなったことを伝えるために。メイドさんはそこで、イルザさんに頼まれたこと以外の行動を取ったのよ…」
「えっ、何?」
首をかしげるペトラだったが、それまで黙って聞いていたエルドがぴんと来たようだ。
「縁談相手に出すはずの手紙をリックさんに渡したってことか」
「そういうことです」
「ちょっと待って、どういうこと? 間違えたの?」
ペトラはまだ全然、ぴんと来ていないらしい。
「ううん、間違えたんじゃなくてわざとよ。メイドさんはイルザさんに駆け落ちしてほしくなくて、リックさんにあきらめてもらうために、わざとお断りと謝罪の言葉が書かれたカードを渡したのよ…、もちろん宛先のところは見せずに」