第29章 カモミールの庭で
こうしてアマンディーヌ・バルネフェルト公爵夫人と、その従姉で幼馴染みのイルザ・ラント前侯爵夫人を前にして、エルヴィンが語る主に “リヴァイの” 武勇伝が始まった。
バルネフェルト公爵はすでに知っている内容の話ではあったが “何度聞いても愉快愉快” とご機嫌なことこの上ないし、アマンディーヌもイルザも手に汗を握って “あらまあ!” “なんて恐ろしいの、巨人は!” と身を乗り出して聞き入っている。
マヤは “団長はとても話し上手だわ” と感心することしきりで、リヴァイだけが勝手に隣で語られる自身の武勇伝とやらに、苦虫を噛み潰したような顔をして不機嫌そうだ。
そのような応接室の状況が、突然ひらかれた扉によって一変した。
「間に合った!」
息を切らして飛びこんできたのは他でもないレイ、レイモンド・ファン・バルネフェルトその人だ。
「マヤ、本当に来てる!」
レイはマヤしか目に入っていない。
ツカツカと大股で歩いてくると、マヤの前でひざまずく。
「逢えて嬉しいよ、マヤ」
その様子を見て母親のアマンディーヌは “レイがひれ伏してる! ロマンチックだわ!” と大喜びだ。
リヴァイは努めて無関心無関係の態度を貫いているが、そのこめかみには青すじが立っている。それに気づいたエルヴィンは、ひとりニヤニヤ笑っている。
「レイ、何故ここにいる? 青年団の会合はどうした?」
「あんなもん、とっとと終わらせてきた。マヤが来ていると聞いて」
「おかしいな…。私はゆっくりとエルヴィン君やリヴァイ君と話をしたいから、彼らの来訪は必要最低限な者にしか知らせていないが…」
あごに手を当て、バルネフェルト公爵はその美しい形の頭を傾けた。
「それは…」
レイが言いよどんでいると、背後に控えていたセバスチャンが代わりに答えた。
「私は坊ちゃまの味方でございますゆえ…、お許しを」