第29章 カモミールの庭で
ハンジだけが律儀に返事をした。
「別に~? あっ! 王都に行くなら新薬を売りこんできてほしいんだけど」
「ハンジ、その件は個別に聞こう。……解散」
解散の声にそそくさとラドクリフが真っ先に退室し、その後ミケとリヴァイがつづいた。
「やっと二人になれたね、エルヴィン! 私の開発した自信作の販路拡大にあたって、新薬の開発に至った経緯からじっくりと聞いてもらう!」
「………」
エルヴィンはこのあと夜が更けるまで、ハンジの猛攻ともいえる秘薬から巨人薬にいたるまでの研究情熱を聞かされることになった。個別に聞こうなど提案して今さら後悔しても、後の祭りだった。
エルヴィンがやっとハンジから解放されて、ほっと一息ついたころ。
夜空には夏の終わりの星が涼しげに白く瞬き、中庭に時折流れる夜風の冷気が、風呂上がりのペトラとマヤの頬を撫でた。
「やっぱり夜は気持ちいいね」
「うん、風が涼しい」
壁外調査から一週間。
なかなかゆっくりと顔を突き合わせて話す時間が取れなかった二人だったが、やっと今一緒に風呂に入って中庭のベンチで涼んでいる。
大浴場では他の兵士がいて思うように話のできなかったペトラは、部屋にたどりつくのを待ちきれずにマヤをベンチに誘ったのだ。
「部屋でもいいけど風呂上りは暑いから。それに…」
ペトラは悪戯っぽい顔をする。
「もう早くマヤの話を聞きたくて!」
「話すことなんてそんなにはないけど…」
「またまた~! 兵長と一緒に休みを取って実家に帰ったんでしょう? 何もないなんて言わせないから!」
ひじで脇腹を小突いてくるペトラ。
「……親に会ってもらった」
「おおっ! それって “マヤさんを僕にください” ってやつ!?」
「兵長、僕なんて言わないから」
「やだな、たとえじゃん!」
「うん…、つきあってることを報告したの。最初は年齢差もあるしお父さんはいい顔をしなかったけど…」
「あぁ… 兵長って若く見えるけど…、何歳差だっけ? 10だっけ?」
「うん」
「うちの親でも嫌がりそう」
「でもね、お母さんが味方してくれて、お父さんも認めてくれたんだ」
「そうなんだ!」
ペトラが顔を輝かせた。
「良かったね!」