第29章 カモミールの庭で
マヤの明るい声が店内に響く。
「兵長、母のパウンドケーキは本当に美味しいの。いつか絶対食べてくださいね」
「あぁ」
「あっ、でも甘いもの… あんまり食べないですよね…」
「そうだが、ジョージが惚れたルチアの味だからな…。一度は食べてみてぇ」
「ほんとですか!」
リヴァイとマヤの会話にジョージとルチアも加わった。
「ルチアのケーキは絶品だからな、期待していてくれ」
「腕によりをかけなくちゃ!」
軽く力こぶを作る仕草をするルチア。
「……楽しみにしている」
「私も兵長と一緒に食べるの、楽しみです」
「そうか」
「はい。だって母のケーキはもともと美味しいけど、兵長と一緒に食べたらもっと美味しくなるに決まってるから」
二人の甘い会話を微笑ましく見守っていたルチアだったが、小鳥のように首をかしげた。
「マヤ、私も訊きたいことがあるわ」
「なぁに?」
「その兵長っていうのはなんなの? 兵士長でしょう?」
「あぁぁ… うん、そう。私もよくわからないの。入団したら、みんながそう呼んでいたから」
「あだ名みたいなものかしら?」
ルチアが言えば、ジョージが反論した。
「あだ名というよりは、省略じゃないのか?」
「省略?」
「たとえば学園長を略して学長とか園長とか言うだろ?」
「それはちょっと違うんじゃないかしら。学園長と学長と園長は別でしょ。それより校長と学校長の方が近くない?」
「ややこしいことを言うなよ!」
「あなたが言い出したんじゃないの!」
なにやら喧嘩らしき雰囲気になってきたので、マヤがなだめた。
「お父さんもお母さんも落ち着いてよ。私もよくわからないけど、兵長は兵長よ。ねっ、兵長?」
「あぁ、そうだな。俺もなぜ兵長かは知らねぇが、最初からだった気がする。兵士長でも兵長でも俺は気にしねぇが」
「そうか、そうだな。兵士長だろうが兵長だろうがどっちでもいい!」
そう叫んだジョージは、手に持っていたティーカップを落としそうになる。それを横から受け止めてルチアは。
「ふふ、そうね。兵長もいいけど、私は兵士長と呼ぼうかしら」
息の合った夫婦の連携を目の当たりにして、リヴァイとマヤは微笑み合う。
「……仲がいいんだな」
「ええ、とっても」