ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
昨日のようにシャッターを出て、車の中に乗り込む。
ディノがリモコンでピッとモニターをつけると、ユウコの姿が映った。それを見つめながらディノが呟く。
「昨日あの子と何かあったのか?」
「……なんで?」
「お前の目つきが明らかに変わったからだよ。私に対しても、あの子に対してもね」
「これで全部見てたくせに」
「言っただろう?このカメラに集音機能はないと。どんなにお前たちが卑猥なキスをしていても、あの子が涙を流して何かを訴えていたとしても私にはそれしか情報がない」
「…べつに、なにもないよ」
「そうだったのかい?私はてっきりお前がユウコに対する“愛”を自覚したのかと思っていたが」
「ッ…愛なんて知らないし、分からない」
「…ふん、あそこまで激しく嫉妬の感情を表していたヤツがよく言う。他の者とキスをしているのが嫌なだけでなく、自分とのキスを他人に見られることすら許せなかったんだろう?…だが、あの子を手元に置いておくのは大変だよ、アッシュ」
「大変…?」
「キスのたったひとつであんな表情になる子だ、しっかり躾ておかないと………ん?」
突然ディノの目の色が変わって、どこかに突然電話を掛けはじめた。
「私だ。こちらはもうすぐクラブに着く…私はしばらく目を離すことになるからそちらの様子をよく見ておくように。声は掛けず、くれぐれも内密にだよ…後で全て報告しなさい、あぁ…では」
電話を切るタイミングでモニターの電源が落とされた。
僕はさっきまでそこに映っていたユウコに想いを馳せる。
…ユウコ、ひとりにしてごめんね。
「…さて、そろそろ到着だよ。彼はとてもいい子だからすぐに仲良くなれるだろう」
「彼?」
「これから対面する子のことさ。歳はアッシュよりもひとつ上だったかな」
またここか…
もはや見慣れた店の前に車がゆっくり停まる。
「さぁ、おいでアッシュ」
車を降りると、僕の肩に腕を回し店に入った。そしてスタッフ専用の扉をくぐる。
「乗りなさい」
廊下で待機していた男がボタンを押すと、エレベーターのドアが開いた。それに乗って上がると、この階も下と同じようにたくさんの部屋が並んでいる。
ある部屋の前で足を止めると、ディノはベルを鳴らした。