ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
「…驚かせてしまったね、こちらにおいで」
パパが私をじっと見下ろしている。
行かなきゃ…
足に力を入れて立ち上がろうとすると、私に回るアスランの腕に力が入った。
『…アスラン、』
「行くなッ!」
『……で、でも』
アスランのいつもと違う語気の強さに焦ってしまう。
「…っ、行かないで…ユウコ、お願い…」
首にアスランの顔が埋まって、囁くように震える小さな声が聞こえた。
アスラン…?
私が動けずにいると、
「…アッシュ、さっきした話を忘れるなよ。私は脅しのつもりで言ったわけではない、全て本気だ。」
見張りの男たちに声をかけると、一緒にシャッターの向こうへ消えていった。ここには私たちだけになる。
『アスラン…?なにがあったの?』
「…なにも、ないよ」
今だに力のこもる腕。その上に手を重ねる。
「ユウコ…」
アスランは後ろから片手を頬にあてクイッと私の首を後ろに向けさせた。少し赤くなる目が私を見つめている。そして唇を近付けてきた。
私の頭にさっきの出来事がバッと蘇る。
見張りの男たちのモノをこの口に咥えて、中に出された液体を…
アスランとキスなんて…っ
『だめっ…!』
私は顔を背けて手で口を隠した。
「……………」
アスランはそんな私の目を見つめると、スルッと手を離してゆっくりと立ち上がった。何も言わずに背を向けてベッドにゴロンと横になってしまう。
『っあ、…アスラン!』
「……………もういいよ」
『…え?』
「行くなって止めてごめん。迷惑だったよね」
『ちがう…嬉しかっ』
「嘘つかないでよ」
言葉を遮られる。
『嘘なんてついてない!』
「きみ、止めないでって顔してた」
『…ねえ、どうしたの?』
「ユウコこそどうしたんだよ?泣きながら笑って出迎えたり、頭撫でられて嬉しそうな顔したり…あんなふうにキスされても呼ばれたら行っちゃうの?そんなの、ただの本物のペットじゃないか。それと僕…もうキミにキスなんてしないから、安心して」
背中を向けたまま言い放ったアスランの言葉に、私は心が強く握りしめられたように悲しくなった。
ちがう、そうしないと…、
私、ここに…
アスランの傍に……
気付いたら私は大声をあげて泣いていた。