ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
「…ユウコに“行ってきます”の挨拶をしてやりなさい。」
肩をポンと叩かれた。
僕は柵の間から両腕を伸ばしユウコの頬を包み手前にグイッと引き寄せる。僕の瞳をじいっと見つめるユウコの目にはまた涙がじわっと滲んだ。ちゅっと瞼にキスをして涙を両方の親指で拭うと、ユウコは僕の手に自分のをそっと重ねた。
「ユウコ、いってきます」
『…いってらっしゃい、アスラン』
僕がユウコの頬から手を離すと、肩に腕を回され檻に背を向け歩き出す。
外に出ると、黒い車が停まっていてドアを開けられ乗り込んだ。
…きっと痛いことをされるんだ、この人もマービンと同じ目をしている。
「…随分なものを見せつけられてしまったな。まるで恋人同士の別れのシーンを見ているようだったよ」
「………」
「アッシュはあの子が大事かい?」
「………」
「ハハ…何も話してくれないとは寂しいな」
檻を出る前、僕の腕を掴むユウコの痛々しい程に必死な目が頭から離れない。
ゴソッとシートのポケットからリモコンを取り出した。
ピッ
前の座席の後ろ側に取り付けられた画面が起動した。
突然なんだ?
そこに映し出された映像は…
「……ユウコ?」
先程までいたあの檻だった。
4画面に分割され、方向や画角の違う映像がリアルタイムに流れていた。
「ユウコのことが気になるんだろう?」
「…カメラ…?」
「ああ、そうだよ。私はキミたちの様子をずっとこのカメラ越しに見ていた……あの子はとても積極的だね?いきなり飛びつき、膝に跨ってキスを強請るなんて。」
「……な、んで」
「私が自分のペットを監視するのに理由が必要かね?ガーベイからキミたちは仲が良いとは聞いていたが…まさか“そのような”仲の良さだとは思っていなかったよ。」
「……っ」
「残念ながら集音機能のないカメラでね、音は入っていなかったが…ここには、響いただろう?くちゅくちゅという唾液が混ざり合う音とユウコのセクシーな吐息が。」
僕の耳をいじりながら、顔を覗き込まれる。
「はじめてのキスではないな?…どれくらい重ねたんだ、あの唇に。」
指が僕の唇をすべる。
「そろそろおまえの声が聞きたいな、アッシュ。」