ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
私に目線を合わせて屈んだパパは、私の頬に手を滑らせた。
「私がここに来たら必ずこうして出迎えなさい。…わかったね?」
そう小さな声で言って背中を向けた。厚みのある大きくて温かい手だった。
逆らえない、逆らっちゃいけない。
いい子でいなくちゃいけない。
そうしなければ捨てられる。
もしそうしなれば、…私とアスランはもう二度と会えないかもしれない。
それは絶対に嫌だ。
だから耐えなきゃ…
アスランのことを思えば耐えられる。
私は従順ないい子、
パパの…ペット…?
私たちの全てを握っているのは、パパだ。
「…ユウコ」
シャッターを出ていくパパの背中を目で追っていた私に、アスランが声をかけた。私は、心配してくれるアスランの目を見れなかった。
『パパ、行っちゃったね!次はいつ来てくれるかな?』
「ユウコ…どうしちゃったの?」
『……なにが?』
「…なんでも、ない。」
ベッドがギシッと軋む音が聞こえる。
アスランが腰掛けたようだ。
「なあおまえ達、いくつなんだ?」
『じゅ、っさい』
「へえ…あの話はそういうわけか。」
「ああ、確かに大人になりかけのイイ時期だ。」
…何の話してるんだろう?
「ジャパンの娘なんだろ?良い髪の色だな、触らせてくれよ。」
すると、
「今日って、何月何日?」
アスランが話しかける。
「今日は…何日だ?」
「7月29日だろ?」
「ああ、そうだ!29日。なんだよ日付知らなかったのか?」
「馬鹿、ストリートキッズが今日の日付知らねえのなんか珍しくもねえだろ」
「それもそうだな。」
『…7月29日?もう8月なんだ』
「なんだよ?」
「僕たち、8月が誕生日なんだ」
「ハッ、おまえ達にも誕生日って概念があるなんて思いもしなかったな。」
「あ…おい、昼飯の時間だ。」
「俺たちが食い終わったら運んできてやる」
そう言い残して男たちは倉庫から出ていった。
ここにはアスランとふたりきりになった。