第8章 苦い再会
鏡花ちゃんが走り去るのを見届け、わたしはふぅと息を吐いた。今夜の寝床は何処にしよう。軍資金は此処に来た時もう尽きた。よって旅館もホテルも使えないし、食べる物にも困るだろう。
横浜は知り合いが多すぎて顔バレする危険もある。さてどうするか、と考えていた時だった。
クスクス、と近くの木の上から忍び笑いが聞こえた。
「誰!?」
また異能を狙う追っ手か? わたしは警戒心を最大にして振り向いた。木の上の声は呆れたように、つまらなさそうに言った。
「全く、この数ヶ月で随分変わっちゃったよねェ。泉?」
ストッと木から人が降りてくる。暗がりでも分かる、太宰さんだ。
「やぁ、久しぶり」
太宰さんは何時もの食えない笑みを浮かべてわたしに手を振った。
「何で此処に……」
「君が戻ってくるような気がしてね。そうしたら鏡花さんと話していただろう?」
「真逆また盗み聞きしてたんですか?」
「またとは人聞きが悪いなぁ」
へらへらと笑う彼は以前と全く変わらない。……変わったのは私だけか。
「太宰さん、夜なのに出歩いてていいんですか?」
「……私は君より歳上なのだけど?」
「子供扱いしてるとかじゃなくて……。夜はポートマフィアが居るのでしょう? 危ないんじゃないかと思って」
「何だ、そんな事かい」
太宰さんはふっと息を漏らした。
「私の前職を知ってるだろう? 元マフィアなのだから、夜に溶け込むくらいお手の物さ」
「そう言う事を言ってるんじゃ……」
「泉、今晩泊まる所は有るのかい?」
太宰さんの唐突な質問に、わたしは素直に首を横に振った。嘘を吐いても彼にはどうせバレてしまうだろうから。
太宰さんはわたしの答えを聞くと満足げに頷いた。
「じゃあ私の家に来ないかい?」
「……別れも告げず逃げ出した元カノを家に泊めるんですか? 凄いですね」
「私は別れたつもりは無いのだけどね。まぁ恋人同士、少しくらい一緒に居ても良いじゃないか。それとも──」