第8章 苦い再会
「それとも、私を忘れて他の男と人生を歩むかい?」
私はそれでも構わないよ。太宰さんはそう云った。彼の綺麗な瞳は前髪で隠れて見えない。
狡いよ、太宰さん。そんな聞き方、狡い。わたしが貴方を忘れられる訳無いじゃない。判ってるのに、如何してそんな聞き方するの。
「……諦められるならこの街に戻っては来なかったでしょうね」
わたしはふいと太宰さんから目を背け、その横をすり抜けた。太宰さんは何も言わない。それをいいことに、わたしは話し続けた。
「何だかんだ言ってわたし、探偵社の皆の事も、太宰さんの事も、大好きだったんです」
「……そうかい」
「でも、わたし異能も変わったし、悪い事もしたし……。汚れてるんです、だから探偵社には戻れない」
太宰さんはわたしの方を振り向かず話した。
「この前、鏡花さんが泣きついてきたんだよ」
『お姉さんは何処? 何時戻ってくるの?』
「彼女も彼女なりに心配してたし、不安だったのだよ」
「そう、ですか」
「君たちの会話を聞いていたけれど、再会にあの態度は無いと思うよ? 下手をすれば彼女の心に刃を突き立てる事になりかねなかっただろう」
太宰さんの言葉がグサリと刺さる。先程の鏡花ちゃんの悲しそうな目が頭から離れない。
わたしはやっとの思いで言葉を絞り出した。
「……だって、そうでもしないとあの子はわたしを追いかけて来る。ずっと、ずっと。前と変わらない綺麗なままだと勘違いして、汚れたわたしを追いかけるのよ」
「追いかけて何が悪い? 彼女が君を追いかけるのは君にとって迷惑なのかい?」
「違う!」
咄嗟に叫んだ。太宰さんがわたしの言葉を促すように止まった。
「……判ってるんです。本当は皆の元に戻りたいんです。……でも、 もう会う資格も戻る理由も無いんです」
わたしは一度殺人という罪に身を落としてしまった。もう戻れない。あの頃の、太宰さんが綺麗だと言ってくれたわたしにはもう戻れない。
「……そうかい」
太宰さんは呆れたように、否、軽蔑したのだろうか。深い深い溜息を吐き、ゆっくり前に歩き出した。