第2章 桜の前
『わ、たしに何す……っ、…え、…』
「リアちゃん、戻っておいで。ここには、君に痛いことをした大人はいないよ…ほら、私の事覚えてなぁい?」
『……女の敵』
「ううん、間違ってるんだけど君の中では合ってるんだよねぇ…」
目の前でしゃがんで膝を抱えたその人。
太宰治…あ、知ってる人だ。
「だぁいじょうぶ、私は縄もテープも、カメラもビデオも玩具もナイフも持っていないよ」
ほら見なさい、とでも言うように上着を脱いで、パタパタとさせてこちらに見せる。
久しぶりだ、この感じ。
『…薬は』
「私薬とか持ち歩くような人間だと思われてるの?」
流石にない…か。
おずおずと顔をそちらに向けると、貼り付けたものでは無いのだけれど、やはり胡散臭いその笑顔が向けられる。
こればかりは人間性を知っているからこその判断だ。
「…手前、なんで……“知ってんだ”」
「え?…ああ、知ってたの君?そのくせそんなことするなんてねぇ……知ってるも何も、だってその場でこの子のこと保護したの、私だもの」
「は…、保護…?」
「だぁから、目撃者だって言ってんの」
それも何度かの。
「リアちゃん、はい。この背がちっこい蛞蝓やろうのこと覚えてる?」
『…知らないわ、そんな人。…私の、ことなんか……』
「…こいつが君の頬を叩いたのは、リアちゃんが自分の体を道具みたいに使っていたのが悲しくなったからなんだよ」
『へ…、な、に……今更じゃない、そんなの。……こんな、街で…私みたいなリスト入りしてる奴、そうでもしないと生き残れないのに』
私の言葉に、その人から胸を痛めた音がした。
「だから、これからはそうしなくてもいいように、こいつがついててくれてるんじゃあないのかい?」
『………でも、私…信じてもらえなかった』
「あ?…何言ってんだよ、信じてもらえなかったって……」
確かに、手を出していたのは私。
だけど、私は理由も無しに他人に無闇に襲いかかったりなんてしない。
こんなこと、普通はないの…私だって、自分で驚いていたくらいなの。
「…中也、何したのこの子に。私もいくらかこの子とは付き合いがあるからね…気にかけくらいはするのだよ」
「何って…こいつがいきなりうちの構成員に襲いかかってんのを目撃したから、それで「何してんだって怒ったの?」…まあ」