第2章 桜の前
「なんでそんなことをした。お前…恋愛感情なんか知らないっつってただろ」
つまりそれは、私が異性として好きな相手など存在しなかったということ。
つまりは、私が挨拶代わりにキスをするような文化圏の人間ないしキス魔でない限り、自らキスをねだるなどということはありえないということだ。
『だって、こうでもすれば諦めてくれるかなって。私執拗い男って嫌いなのよね…だから態度で示せば分かってくれ…____』
パン、と、乾いた音がした。
…痛かった。
何の痛みなのだろう、これは。
ああ、知ってる…だって私…私だって、抵抗たかった時くらいあって。
「ちょ、…中也、君何リアちゃんのこと叩いたりなんか…ッ」
「やりすぎかもしれねぇが、こいつは自分のこ『…っ、あ……、や、…ぁ』…悪い、少し痛くしす……おい、どうした」
膝に力が入らなくなった。
悪意ある相手からの攻撃くらい、なんともない。
じゃれ合うくらい…なんともない。
けど、私は男の人の目で…私に何かを言い聞かせようとして痛いことをされるのが大嫌い。
躾なんて、大っ嫌い。
「…リアちゃん、そいつ、悪い奴じゃないよ。クソみたいな性格してる馬鹿だけど、君にとって悪い奴じゃあない」
『だ、って…だって、わ、たしに……躾、するって…』
「!…中也、君そんなこと言ったの?……この子が何したのさ君に」
「俺にっつうか……他の野郎にいきなり斬りかかってたから、だな。……それもその他の奴ってのが、マフィアの中でも珍しい良い奴だし…」
影が見える。
真っ黒い影。
顔も雰囲気も覚えてなんていないけれど、叫んだだけで壁に投げられた。
泣いただけで、殴られた。
助けを求めただけで…まるでその辺に転がっているただのいしころのようにして、蹴って、踏みつけられて。
反抗的な餓鬼だと言われた…躾のなっていない餓鬼であると。
だから、教えてやらないとって。
フラッシュバックとか、そこまでは流石にいかないけれど…それでもいけない、声が被る。
影が重なる。
『た、すけ……、ぁ…たす、…っ』
「君、この子のことそんなに大事に思ってるくせして何も聞いてないのかい…リアちゃんに暴力は……」
「……、…お前…まさか俺の事………怖い、のか…?」
『!!…な、に……?』
胸の前で震えの止まらない手をぎゅ、と握って、後ずさった。
