第2章 桜の前
「君のことだから、どうせ自力でお金稼いで独立しようって無茶してるんでしょうけどね…お兄さんもちょっと心配するよ?まあ、学校あるから流石に正社員でうちに雇うわけにはいかないけど…探偵社のアルバイトに興味はないかい?」
『ダメね、下手に有名になりたくないし』
「どう足掻いても無理かぁ…ねえリアちゃん、本当に何があったの?君そんなしかめっ面がデフォルトだっけ。教えてくれなきゃキスするけど」
『…いいわよ、一昨日どこかの馬鹿にまともなファースト盗られたし』
そういえば、暴行目的でも金銭目的でもなんでもないちゃんとした唇のキスは、あれが…初めてだったんだ。
…あーあ、ダメだな私。
今何考えても引きずってそう。
「何…襲われたんじゃなくて?」
『そ。悪意でも悪ふざけでもなく…っと、丁度すぐそこまで馬鹿が来てるらしいし?一役買ってくれるかしら、太宰さん』
少しその陰った瞳で私を捉えてから、いいよ、と私の顎に指を添える。
そしてそのまま、少し入った路地で…初めて合意の上で、あまりにも味気のないキスをした。
なんだろう、この喪失感…まあいいや。
私もこの人も、とっくに初めてじゃあないのだから。
なんて、これくらいすれば、と鷹を括っていたのだが。
唇を離した直後、目の前の相手が横に吹っ飛ばされる。
それに思考が停止すれば…肩を上下させて、春なのに汗だくになっていて…息を切らしたそいつが、拳を震わせていた。
何してんの、この人…なんで、殴ってんの。
「…っ、てて……やあ中也、こないだぶり」
『…知り合いだったの太宰さん?相っ変わらずタチ悪いわね、読んどきゃよかった』
「随分丸くなったね君は?…中也は私の元相棒だよ、“君のおかげで”できてしまった、私のね」
太宰さんの口振りにぴく、と反応する彼は、どういう事だ、といつにも増して低い声で問い詰める。
「言ったままの意味だけど?君、どうして今自分がそんな風に外で生活できてるかも知らないの??」
『変な事口走ったら昔の女にあんたの現住所送り付けるわよ』
「怖い怖い、流石にやめてそれは」
私が言わないことは…詮索しないらしい。
心の中で決意したようにそう宣言する彼が、こちらを振り向いて目線を合わせる。
「……お前、こいつと知り合いだったのか」
『それが?』
「…無理矢理された?」
『いいえ、私からよ』
