第2章 桜の前
「テーブルは?ひとつくらいはあってもいいもんなんじゃねえの?」
『勉強用にあるじゃない?』
「あー…じゃあ、あれだあれ。食卓的な」
『この部屋で食事なんてしないもの。食べたところでデザートかお菓子くらいのものよ』
「…じゃあ、逆にベッドに転がってる下手したらお前の背丈よりでけぇあのデカブツは??」
『デカブツ言わないで私のカゲ様二号に向かって』
彼が最も衝撃を受けたのは、他の何よりもその名前だったらしい。
一瞬引いた顔されたし、ちょっとどういうことよ。
『言っとくけど本人がそう言ってたからなんだからね?』
「自分で言ってたのかよ本人が…やけに縦に長い蝶々だな」
『あ、それドミノマスクがモチーフらしいよ』
希望を全て失ったかのようにして項垂れる中也。
そして探していた新品のドライヤーを見つけて箱から出し、それを彼の元へ持っていく。
「…もういいや、乾かそうか」
何かを諦めたのだろう、聴かなくても分かる。
ほぼ活用する機会のなかったドレッサーの前に座らされれば、鏡を出さずして乾かされ始める。
頭に触れてもらうのって、中々気持ちいいものなのね。
なんて不思議な気持ちになりながら、気分を高揚させていく。
しかし私は忘れていた、自分があまり髪を短くもしなければ、全ての髪を上げきることなくハーフアップにしている理由さえ。
習慣って恐ろしい。
それを中也が見つけると共に、彼の手がピタリと止まってしまう。
「お、前……これは、何があったのか聞いても…?」
『…忘れてたわそれ。…見たらわかるでしょ貴方なら?撃たれた事があるってだけよ、その“項”』
「撃たれたって…まさか、その左足もそういう…」
『まあ…私の事知ってるようなコレクターとかマニアとかなら、人間だって敵だからね。私は奇跡的にその時いた人に助けてもらえたわけだけど、庇ってくれた人死んじゃったし』
不老不死。
その響きに寄ってくる輩は、少なくはなかった。
今は常に誰かと一緒にいたり、移動時なんかは連勝がでしゃばってくれるおかげで空中移動だったりだからかなり頻度は減った方だが。
項に二発。
私じゃなければ死んでいただろう、こんな怪我。
「……夜通し俺がついてんだ。安心して普通に寝ろよ、今日からは」
『…中也、起きとくつもり?中也が寝ないなら私も寝ない』
「…寝るよ、分かった」
