第114章 安室1※
「男が落としたナイフと一緒に拾っておいたんですが、渡すのが遅れてすみませんでした」
「いえ・・・とんでもないです。ありがとうございます」
大事そうにそれを握り締める彼女に、更に胸が苦しくなった。
そういえばこれには、アイツからの最後のメールも入っていた。
・・・それがどう心の支えになっているか。
僕はよく分かっているはずなのに。
「あ、準備できました?ここから少しだけ歩きますけど大丈夫ですか?」
「問題ないです」
ここで僕が隙を見せれば、彼女だって何かを疑う。
これ以上、組織のことに首を突っ込まれてはいけない。
僕は彼女にとって、安室透であり続けなければならない。
それを改めて決意しながら、彼女が荷物を詰めたカバンを手に取ると、部屋に鍵をかけて駐車場まで足を進めた。
「・・・だいぶ寒くなっちゃいましたね」
そう言って、手にかけた彼女の息は僅かに白くて。
それを見てなのか、何かを思い出すように微笑む彼女を横目に見ると、自分の中で何かが動かされた気になった。
彼女の中で、こうして生き続けるアイツは幸せ者だ。
それは、良かったとも嬉しいとも感じていたはずなのに。
「・・・ひなたさん。手を出してください」
「手、ですか?」
どこか、アイツに彼女を遠ざけられた気もして。
・・・らしくない上、認めたくはないが、これが嫉妬というものだろうか。
その感情を満たす為か、隠す為か。
冬真にはどこか後ろめたさのようなものを感じながら彼女の右手を取ると、そのまま自分の上着のポケットへと入れ込んだ。
「え、あ・・・っ」
少し戸惑う彼女を愛らしいと感じるのは、いけないことなのだろうか。
2人でいる時は・・・僕だけのことを考えていてほしい、なんて。
「少しは温まりますかね」
そんな醜い独占欲を覆い隠すように、そう言って笑顔を向けた。