第114章 安室1※
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えます」
「喜んで」
少し顔色が明るくなったような彼女に、少し胸が痛むような気がした。
・・・彼女のこの純粋な気持ちに、こちらもそのままで返したいのに。
叶わぬものと決まっているから。
どうすればそうできるだろう、という考えはなく。
一度彼女を家まで送り届けると、笑顔を崩しポケットから彼女のスマホを取り出した。
「・・・・・・」
こんな僕を知れば、彼女はきっと酷く傷つく。
だから何も知られないように。
彼女に残る僕は、なるべく綺麗なままで。
最後は幻想であったように・・・消えなければ。
そう思いながら、アプリのダウンロードが済んだスマホを、ポケットにしまい込んだ。
「・・・?」
その数分後、突然部屋の中からドタバタと慌ただしい音が響き始めて。
彼女以外の足音は聞こえない。
それが段々と玄関の方へと近付いてきたかと思うと、それは突然勢いよく開かれた。
「透さん・・・!」
そこから飛び出してきた彼女は、どこか涙ぐんでいるようにも見えて。
「ど、どうしたんです?」
何があったのかと彼女を支えるように腕へ手を添えると、落ち着かせるようにゆっくりとした口調で尋ねた。
「私・・・っ、スマホを・・・!」
その瞬間、彼女の口から出た言葉に心臓を掴まれたような気になった。
スマホを僕が持っていることに対してではなく、彼女にとって大切なものが入っているそれを、利用した罪悪感のようなものからで。
今更、といえばそうなのに。
利用できるものであれば、そうした方が得策なのも分かっているのに。
「スマホ・・・?ああ、ひなたさんのスマホなら僕が持ってますよ」
彼女のこんな顔を見るくらいなら。
しなければ良かった、なんて。
「よ、良かった・・・」
問題なく動くスマホを確認すると、酷く安心した様子の彼女を見て尚更。
自分らしくない、ぬるい考えまでしてしまう始末だった。