第2章 当日の朝
窓の向こうが、ほんのりと白い光を帯びてきた。
一晩中抱かれながら、あれだけ来るなと願った朝が、空の端から迫って来る。
阿伏兎は既に立ち上がり、マントまで着ている。
私は気だるい体を布団に沈ませたまま、その姿をぼんやり見ていた。
「…、ちょっと来い」
不意に呼ばれ、一瞬頭が追いつかない。
阿伏兎はそれを私の不機嫌と受け取ったのか、苦笑いを浮かべて自ら近づき、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
そして次の瞬間、右手だけで私の半身を持ち上げた。
「えっ、何」
戸惑う私は、あっという間に阿伏兎のマント
に包まれた。
乾いた土のような、安心する阿伏兎の匂い。
あぁ…もうずっとこうしていたい。
例えば手の平に乗るくらい小さくなり、このマントにくるまれて、どこにでも一緒に行けなら良いのに。
そんな私の思いを感じたのか、阿伏兎がささやく。
「俺だって、お前を連れて行きたい。こうして、ずっと手元に置きたい。けど、俺の行く場所じゃ危険な目に合わせちまう。大事にしたい女だから連れて行けねーんだ。分かってくれよ」
そんな事は分かっている。そう、分かっているのだ。だから…。
顔を押し付けた広い胸から聞こえる、力強い鼓動。どうか、またこの鼓動を聞けますように。部屋を照らし始めた朝の光に負けぬよう、私はきつく目をつぶり、願い続けた。
解説
「明日よりは恋ひつつもあらむ今宵だに速く初夜より紐解け我妹(わぎも)」
『明日からは逢えずにまた恋い慕うことだろう。だからせめて今宵だけでも、速く宵のうちから紐を解いて服を脱ぎなさい、いとしい人/万葉集/詠み人知らず』
「大船に妹乗るものにあらませば羽ぐくみもちて行かましものを」
『大船に妻が乗っても良いのだったら、羽でつつんで守るようにして連れて行くことができるのに/万葉集/遣新羅使』