第1章 事件発生
「吉原へですか?」
思わず聞き返した私に、山崎さんはうなだれた。
「うん。僕はさんにそんな危険な事させたくないんだけど…」
「背に腹は変えられねぇんでさぁ」
と、沖田さんは私を見つめた。
吉原で物騒な事件が続いているという噂は、私の耳にも入っていた。
張り見世の遊女が、客に何やら薬をかがされ、失神している間に着物や簪、金目の物が盗まれる。更には遊女の体にも、青あざや火傷跡が残り、10日は客を取れないらしい。
その客は変装がうまく、百華や真選組も手をこまねいているという。
「そこで、さんにに白羽の矢が立ったんでさぁ」
「…なるほど、確かに私は薬師ですから、多少の耐性はありますしね」
「いやでも、やっぱり、沖田隊長これは…」
もごもご言う山崎さんの口に、沖田さんの手からタバスコが注がれた。
「がーー!!なにずるんでずがぁー!?」
悶絶する山崎さんをよそに、沖田さんは話を進める。
「そうなんでさぁ、さんなら薬の知識もあるから、犯人に気付けるかもしれねぇし、山に薬草取りに行っているから、多少は身のこなしも良いんじゃねぇかって」
「えぇ。そうですね。あの、使われた薬は残っていませんか?」
「それが無いんでさぁ。遊女が言うには、タバコの煙を顔に吹きかけられてから気が遠くなったって。あと、甘い、果物が腐る寸前まで熟れたみてぇな匂いだったって」
「果物…」
いくつか思い当たる。たぶん平気だ。私なら、少なくともすぐに失神はしないだろう。
「わかりました。ご協力させて頂きます」
「すいやせん。真選組の全力で守りまさぁ」
沖田さんは、私の眼を見つめたまま言った。
出来ればそんなセリフは、山崎さんから言われたかったな。
私はそっと、死にそうな顔で沖田さんに蹴られている山崎さんを見た。