第3章 後編
ユーリは異変を察して掴まれた手を外そうとしたが、彼は動じることもなく、ユーリ手を掴んだまま立ち上がらせると、碧眼が挑発的にアーデンを射抜いた。
「歌」——それが何を指すのか。ただの歌か、それともユーリの正体に関わる何かか。
レティシアには意味が分からず困惑しているが、アーデンには通じたらしい。仮面の笑みは完全に剥がれ落ちていた。
彼は一体何を知っているのか。
「そんな怖い顔をしないで、あなたも踊ったんですから、僕も一曲踊らせてくださいよ」
レオンハルトはそういうとユーリの腰に手を添えた。
アーデンはその場から動かずにレオンハルトの動向を探っていた。
金の目の奥で何かが渦巻いている。怒りか、それとも別の何か。
レオンハルトは満足げに口角を上げ、楽師に目配せした。
新しい曲が始まる。今度はスローワルツ——テンポが遅い分、密着する時間が長い曲だった。
レオンハルトはユーリをリードしながら踊り出した。
その腕は確かで力加減も申し分ない。
レオンハルトはステップを踏みながら、再びユーリに顔を近づけた。
「あなた、あの男の弱点でしょう。——分かりやすい人だ」
テーブルではアーデンがグラスを手に取っていたが、ワインには口をつけていなかった。指先でグラスの脚を回す動作だけが規則的に繰り返されている。
そんな彼を不審に思ってレティシアが声を掛けるが、アーデンは答えなかった。
視線は踊る二人に縫い止められたままだった。